機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
C.G.S. Archive
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- P.D.323.11.01
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- ギャラルホルンの襲撃
- P.D.323.10.30
- CGSのやり方
- P.D.323.10.29
- ガキどもの興味
- P.D.323.10.09
- ガキの面倒
- P.D.323.10.08
- モビルスーツという代物
- P.D.323.08.31
- 古い記録のモビルスーツ
- P.D.323.08.14
- 貴重な品物
- P.D.323.08.10
- 戦争映像の記録
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- 記録開始
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贐
P.D.323.11.01
ギャラルホルンの襲撃から数日が経った。
まだ傷は痛むが、どうやら痛いことに慣れてきたらしい。
あの襲撃の後も惨憺たる有様だった。襲撃の混乱に乗じて参番組のオルガたちが起こしたクーデターでオレたちとガキどもの立場は逆転した。
そもそもオレたちも正規兵とは名ばかりで、ガキを囮に尻尾を巻いて逃げ出しちまったような連中ばかりだからな。ガキどもにCGSを乗っ取られちまってもさほど驚きはねぇ。死にもの狂いな分、ガキの方がマシかも知れねぇな。
ガキどもはCGSを乗っ取って鉄華団とかいう名前に変えてやっていくつもりらしい。オルガの野郎は一人前に残るか去るかの選択を提示してきた。そんなのハナから決まっている。オレはここを去ることにした。
理由は三つある。
ひとつ、オレはガキが嫌いだ。
ふたつ、どう考えたってガキどもだけで商売が上手くいくはずがねぇ。近いうちにジリ貧になるのがオチだ。
みっつ、この間の襲撃で両足が無くなっちまった。こんなんじゃ何もできやしない。
どうしたもんかと途方に暮れていると、慌ただしくモビルスーツをいじっている雪之丞と目が合った。
「よう、大将。オレとお揃いになったな」と、嫌味なのか同情なのかよくわからん言葉をかけられた。義足か。地球じゃあ人体に何か取り付けるってのは気持ち悪がられる。義手義足も阿頼耶識も人体をイジるって点で嫌悪の対象だ。
「そんなに悪いモンじゃあないぜ」とオレの考えを見透かしたかのように雪之丞が付け加えた。
そうだな。悪くない。幸い手元には退職金がある。この金で義足をつけてみるか。
そうしないと新しい仕事にもありつけないしな。
少しだけガキどもの気持ちが分かった気がする。
オレは多くない荷物をまとめると、ふと例の記録媒体が目に付いた。まだデータをさらい切っていない。だが、オレの興味はだいぶ薄れていた。
なんせ話し相手のジャスパーもこの間の襲撃で死んじまった。
ジャスパーがいないんじゃ張合いもない。
オレは少し惜しいと思いつつ、記録媒体をジャスパーの遺品ボックスに放り込んだ。
香典代わりになるといいが。
さて、この記録もこれで終わりにしようと思う。なんとなく誰かに読んでもらいたくてネットワークに残すことにした。もしこれを見てくれる酔狂なヤツが一人でもいたなら嬉しい。
ギャラルホルンの襲撃
P.D.323.10.31
先日酒場で耳にした噂話が気になったオレは、不振がられない程度になんか知ってそうな奴らに探りを入れてみた。どうやらクーデリア・藍那・バーンスタインが地球行きの護衛任務をCGSに依頼するって話だ。しかし何だかキナ臭い。お嬢さんを地球に連れて行くってだけの話なら仕事としてはそんなに大した事じゃあない。その割にゃあ噂ばかりが先走ってて実態が見えてこないのが気持ち悪い。
社長のマルバに探りを入れるってのも無くは無いが、ここはハエダの野郎にでも突っ込んでみるか。ハエダを探して基地の中をウロついていると、ジャスパーが駆け寄ってきた。ジャスパーはジャスパーでオレを探していたらしい。
ジャスパーによると、件のお嬢様とそのお付きがCGSにやってきたそうだ。噂はどうやら本当だったらしい。しかし、ジャスパーが言いたかったのはそんな事じゃあなく、ギャラルホルンの地上基地に空から何か降ろされた、って事の方が重要みたいだ。空って言えば静止軌道に浮かんでいる基地、アーレスだろう。アーレスから降ろされるなんてギャラルホルンのモビr
ハエダの野郎。どういうつもりだ!こんなはなしきいてないぞ いくらガキどもを
本当に来やがった!すげぇ数だ。ありゃあさいしんのもびるわ
クソっ!なんでコッチに向かってくるんだ!?
冗談じゃねぇ!ありゃあモビルスー
……何とか生き延びたみてぇだ。口の中がジャリジャリして気分が悪い。
あのクソ社長はクーデリア・藍那・バーンスタインをギャラルホルンに売った。マルバとハエダは直前までオレらにも黙ってガキども囮にしようって腹だったらしい。予定じゃあクーデリア共々ガキどもが皆殺しにされて終わりのハズだった。ところがガキどもがやりやがった。ギャラルホルンを返り討ちにしたんだ。
しかしなんだ。今日は疲れたからここまでにしよう。
CGSのやり方
P.D.323.10.30
いきつけの店に飲みに行こうとクリュセの路地を歩いていると運悪くジャスパーにばったり会っちまった。ここ最近ロクなデータをサルベージ出来なくなったのはコイツも同じようで、話と言えばどこかで見つけたガラクタの事ばかりで嫌気がさしていた。どうすれば、ゴミの話を延々と続けられるのか俺には理解が出来ない。
鬱陶しいコイツを追い払うために目についた近くの店に入る。ガラクタに金を使っているジャスパーは金が無いらしく、案の定店には入らずどこかへ消えた。
初めて入った店は、当然目当ての女がいるわけでもなく、ゴロツキがたむろする酒場だった。男どもがテーブルを囲んでヒソヒソと何か話してやがる。その中でもオレの興味を引いたのは、近くの席にいた同業者らしいゴロツキどもの話だ。耳をそばだててみると、どうやら火星の独立運動を率いているクーデリア・藍那・バースタインがCGSに仕事を発注するらしいという噂話だった。
クーデリアと言えば、クリュセのバカ市長、ノーマン・バーンスタインの娘だ。そんなお嬢さんがCGSに何を発注するのか気になって仕方がない。あのギャラルホルンがこの話を知らねぇワケがないし、放っておくワケもねぇ。この噂話が本当ならやっかいな事になる。ギャラルホルンがモビルスーツの一機でも出してくれば、ウチなんて一瞬で捻り潰されちまうだろう。まあ、火星じゃあどこもウチと似たり寄ったりでモビルワーカーしか持っていない。モビルワーカーじゃあ、束になったってモビルスーツには敵いっこないのはそこら辺のガキでも知ってることだ。モビルスーツと渡り合えるのはモビルスーツってな。
ん?そういやウチにはモビルスーツが一機あるって話だな。随分前に社長がどこかで拾ってきてエイハブ・リアクターを発電機代わりに使ってるらしい。ジャスパー曰く、リアクターを二基ついている珍しいフレームらしいが、300年以上前の骨董品が戦力になるとも思えねぇ。ギャラルホルンの最新型だっていうグレイズなんかにゃあ、太刀打ち出来ねぇだろうよ。
まあ、今考えたって仕方ない。オレは安酒を一杯煽ると、お目当ての店に向かった。
ガキどもの興味
P.D.323.10.29
ついこの間の事だ。オレはCGSでの仕事をそこそこに、タブレット端末を使ってこの記録を書き綴っていた。しばらくすると背後に気配を感じて振り向くと、訓練を終えたらしい薄汚れたガキどもがオレのタブレットをのぞき込んでいやがる。
別に大したことを書いてるワケじゃねぇが、言いふらされても気分が悪い。
口止め代わりに2、3発殴ってやろうかとガキどもを追いかけたが、すばしっこいヤツばかりであっという間に逃げられちまった。クソッタレが。雑用をやらせる時は手を抜いてちんたらしているくせに、こういう時だけはやけにすばしっこくて頭に来やがる。
だが、冷静に考えてみりゃあ、ここにいるガキどものほとんどは全く読み書きが出来ないということを思い出した。物心ついた頃には路地裏で暮らしてたようなガキばかりだからな。当然のことだ。
そもそも、地球で悠々と暮らす金持ち共と違って、俺たちのような火星で暮らす人間は常に搾取される側。文化水準だって大きな開きがある。地球のやつらにとっては読み書きなんてのは出来て当たり前だろうが、火星じゃあ、それが当り前じゃない。親を亡くしたやつ。親に売られたやつ。親に捨てられたやつ。そんなガキどもがわんさかいて、当然教育なんて受けられない。そんなやつらがCGSに来る。
CGSにいるガキどもは読み書きをする必要がない。そのための阿頼耶識システムだからだ。あれでマシンと繋げりゃあ、文字を読まなくても知らなくても頭に直接情報が入ってくるらしい。一々教えるなんて手間なく、すぐに仕事させられるワケだ。
ガキどもに生えてるヒゲってのは気色悪いが、文字すら読めねぇガキどもを使えるようにするってんだから、社長もよく考えたもんだ。
よくよく考えたら、さっきのガキどもも文字が読めねぇだろうから理解はできないだろう。そう思うと少しは落ち着いたが、後で見かけたら殴っておこうと思う。
ガキの面倒
P.D.323.10.09
オレはガキが嫌いだ。
怒鳴れば怯えるし、殴れば泣きやがるからだ。なのに、CGSには小汚ねぇガキがわんさかいやがる。社長曰く「ネズミにも使い道がある」んだそうだ。あんなヤツら、憂さ晴らしに殴るぐらいしか使い道が無さそうなモンなのに。
とにかくガキが嫌いなオレは、本来なら関わらないように仕事を選んでいたが、トドの野郎が腹を壊したとかで、急遽ガキどもの訓練監視に駆り出された。
ガキと一口に言ってもCGSには二種類いる。そこそこ育って身体のデカくなってきたのと、そうでないのだ。デカい方はモビルワーカーでの模擬戦やらせたが、そうではないひ弱でチビっこいガキどもには、無意味なことをやらせることが多い。一日目には土嚢を積ませて、二日目には平地に戻すとかだな。俺が監視していたのはチビっこいガキどもだ。ただでさえチンタラと作業が遅ぇくせに少しでも目を離すと模擬戦に見入って手が止まる。
そんな不愉快なガキどもを眺めていると、オレはこの前復元したデータの画像を思い出した。相変わらずいつの時代かはわからない画像。その中のガキどもは、オレの周りのガキどもとは対照的に泥汚れとは無縁の小奇麗な連中ばかりが写っていた。ひょっとしたら地球に住んでる金持ちかもしれん。そう考えると、また違った意味で不愉快になってくる。
きっとこいつらは過酷な戦場や非人道的なやりとりがまかり通っちまうような環境とは無縁の生活をしているんだろう。
CGSは民間警備会社だが、必要があれば荒事もやる。そうなると戦場に出たガキどもを消耗して弾除けが減っていく。そんな会社だから金で売られてくるガキも多い。わかりやすいように赤いラインが入れられてるヤツらがそうだ。
オレはガキの中でもこいつら一番嫌いだ。
売られた連中で意気投合してんのかわからねえが、まとまっていることが多い。あんな寄って集って何を企んでるのか、いつ何を仕出かすかわかったもんじゃねぇし不気味で仕方がねぇ。
オレとしてはこれ以上あんなガキを仕入れるのは勘弁してほしいが、マルバのクソ社長は前線の壁代わりにとガキどもをどんどん仕入れてくる。まぁ、クズ鉄同然の値段で手に入っちまうから仕方がないのかもしれんが。
誰がつけたのかは知らんが、あいつらのことを「宇宙で集めたクズ鉄同然の値段」という意味で『ヒューマンデブリ』と呼んだりもする。
なんとまあ、言い得て妙だ。
モビルスーツという代物
P.D.323.10.08
仕事の合間に少しずつ記録媒体のデータを修復し続けた結果、大分多くの画像が確認できるようになってきた。その中には、この前引き当てたモビルスーツらしき画像も含まれていた。
中でもオレの興味を引いたのはそのモビルスーツがどこかの薄暗いところに展示されているもの。画像が粗く詳細は確認できないが、設計図らしき資料や、外装を外した内部フレームも見ることが出来た。
このデータがいつの時代ものだかわからないが、モビルスーツは今と同じようなフレームシステムを採用していたってことなのか。厄祭戦の頃には色んなフレームが作られたって話だが、今じゃあギャラルホルンぐらいしか一からモビルスーツを作ることなんか出来やしない。そういや、ギャラルホルンが主力として配備しているグレイズって機体は最新型のフレームが使われているというのを聞いたことがあるな。
そんな事を考えていると、ゴミ置き場から拾ってきたガラクタを抱えたジャスパーが後ろからオレのタブレットをのぞき込んでいやがった。オレは咄嗟に持っていたタブレットを隠しジャスパーを追い払おうとしたが、その一瞬で奴はオレの見ていた画像を認識したのか、滔々と話し始めてきた。
ジャスパーの話によると、この画像のモビルスーツのガンダム・フレームという機体に似ている、と言う。ガンダム・フレームって何だと聞くと、お前はCGSの動力源を知らないのか、逆に聞かれた。CGSの動力源と言えば、その昔社長が砂漠で拾ったモビルスーツのことだ。名前なんて知らない。コクピットが無くてモビルスーツとしては使えねぇが、エイハブ・リアクターが生きてるから発電機代わりに使ってるモンだ。こいつの解説によると、あれもガンダム・フレームのひとつらしい。らしい、というのは厄祭戦末期にこのガンダム・フレームが何機か作られ、活躍したという話をジャスパーが続けたからなんだが。そもそもモビルスーツが貴重になったこのご時世じゃあ、大量のモビルスーツがバンバン作られていたなんてのは、おとぎ話の世界だぜ。
しかし、ジャスパーは何でこんなにモビルスーツに詳しいんだろう。オレが怪訝な表情を浮かべると、ジャスパーを何かを察したのか、ガラクタを抱えたままどこかに消えて行った。
古い記録のモビルスーツ
P.D.323.08.31
奇妙な画像を引き当てた。
クリュセの路地裏で見つけた記録媒体、これの解析とデータ復元を続けてもう数週間が経つ。記録媒体自体が骨董品のようなモンだから、データ自体が古いのも当たり前。これまで解析する事が出来たデータを見るに、厄祭戦よりも古い遥か過去の時代のものであることだけはわかった。そんな時代のものであると推測するからこそ、昨晩解析された画像が奇妙なものだと思える。
画像にはモビルスーツが写っていた。
モビルスーツと言やあ、建造費も維持費もバカにならない高級なシロモンだ。今のご時世、よほどのデカい組織でもなければ所有するのさえ難しい。だからオレにはモビルスーツの知識なんてさほど無いが、そんなオレでさえ、古い時代にモビルスーツがあったなんて疑問に思うくらいだ。この記録媒体は一体いつの時代のものなんだ……。
オレは何の気なしにモビルワーカーの格納庫の片隅に腰を下ろした。ここ数週間、仕事らしい仕事がないからか、格納庫に人気が無かったからだ。ここなら退屈しのぎの考え事をするにはもってこいだろう。
タブレットに映し出されているのはモビルスーツであることに間違いなさそうだが、画像が荒くてどの年代かまでは読み取ることが出来ない。しかしコイツは眺めてるだけでも目が疲れるな。
画像から視線を外すとモビルワーカーが目に入った。モビルスーツを見た後だといやに心もとなく見える。相手もモビルワーカーならともかく、エイハブ・リアクターを積んだモビルスーツなんかを相手にしちゃあ、この30mmのライフルも豆鉄砲みたいなもんだろう。モビルスーツに塗られているあのナノラミネート・アーマーってヤツのせいで銃火器だと決定打にならない。弾が当たっても削れて薄膜程度だ。特にCGSのモビルワーカーは世間に出回っているものよりも旧式なんだから、モビルスーツを相手にするなんて考えたくもない。
「や、やっと見つけた。」
どうやって嗅ぎつけたかは知らないが、オレを見つけたジャスパーが近づいてきた。正直言うと今は会いたくなかった。せっかく新しいデータを見つけたというのにオレの中でそれが何なのか答えが出ていない。見ようによっちゃあでっち上げた合成画像に見えちまう。それじゃあ、この間「紙」の存在を見つけたジャスパーの先を越す事なんて出来ない。
「な、なんか見つけたか?」
相変わらずのドモリ口調に苛立ったオレは「うるせぇ」とだけ言い残して、部屋へと戻った。次こそあの野郎が驚くようなデータをサルベージしてやる。
データ解析を再開したオレは、疑問の元になったデータを保留のフォルダに入れた。
貴重な品物
P.D.323.08.14
クリュセの路地裏で手に入れた古い記録媒体。これに収められたいつの時代かもわからないデータの修復作業を開始してから、変人ジャスパーとメシを食うのが俺の日課になった。
メシの時間と言えば、これまでは、不味い料理の愚痴を吐くぐらいのツマンネェ時間だったが、今は違う。やれデータの解析速度が遅いだの、あの記録映像はどうだの、そのほとんどがあの記録媒体についてだ。これがまた面白い。特に解析して出てくる画像や映像は俺らの常識とはかけ離れている。考古学者の楽しさってのは、こういったモンなのかもしれねぇ。まあ俺たちにはそこまでの学はないから、ただただ面白がる程度だけなんだが。
今日、ジャスパーが持ってきた画像も興味を引くものだった。
「スタン、これ見ろ。あ、新しい画像。この持ち主、相当な金持ち。」
切れ切れに喋るジャスパーにはイラつくこともあるが、さっと出された携帯タブレット端末に映し出された画像に興味を引かれた。文字は相変わらず読めないが、みすぼらしい建物と、その部屋らしいものが映されていた。建物自体は古いことだけはわかるありふれたもので、部屋の方はここなんかよりはずいぶん小奇麗だ。
ただ、これぐらいのビルなら繁華街にでも出向けば見かけるし、部屋も特段変わった様子もない。これだけじゃあ金の臭いはしない。じろじろと画像を見ながら思案していると、ニヤニヤ顔のジャスパーが、憎たらしい顔でトントンとタブレットをつついて見せた。
「ここ。ここ。紙だ。大量の紙が写ってる。」
よく見ると束になった大量の紙が写っている!生まれてこの方、紙なんて貴重品を実際に見たことなんてない。この先も目にすることなんて無いだろう。地球に住んでる金持ちの中には紙で作られた本って物を持ってるヤツがいるらしいが俺たちには縁の無い話だ。
いやしかし驚いた。大昔には紙が一般的だと聞いてはいたが、こんなに山積みにしているとは。確かにジャスパーがこれを見て『金持ち』と表現するのもわかる。しかし、これはそれだけ古いデータなんだろう。
紙になにが書いてあるのか目を凝らしてみたが、画像の不鮮明さも手伝い、文字のひとつも読めなかった。ただ一つわかるのは、やはりこの記録媒体には何かある。俺は不味いメシを掻き込むとジャスパーとの会話を切り上げ食堂を後にした。正直、悔しかったからだ。奴に頼んでおいて悔しいってもの変な話だが、次は俺が新しい発見をして見せる。明日の飯どきくらいまでにはな。
戦争映像の記録
P.D.323.08.10
この間の任務でずいぶんとガキどもに死人が出たと聞いたが、いったい何人死んじまったんだか。基地内で見覚えのないヒューマンデブリのガキどもを見かけるようになったのはそのせいだろう。と、なると、新しく入ってきたガキどもに“ヒゲ”をつける日が当分続くのか。また寝られない夜が続きそうだ。麻酔も無しにあんなものを体に埋め込むなんて、考えただけで首筋が冷えてくる。今回はどれぐらいが残るのやら。
せっかくの休みに辛気臭いガキどものツラを見て過ごす理由は無い。俺は適当な理由をつけてクリュセ市街へと繰り出した。とは言え、別に何か当てがあるわけじゃない。適当に裏通りにあるジャンク屋を物色していると何だか面白そうな代物を見つけた。店主によると何に使われていたかは分からないが、相当に古い記録媒体らしい。どんな記録が残っているかはわからないが、こんな大昔のシロモノがまだ使える状態で残ってんだから、もしかするととんでもなく貴重な情報が残ってるのかもしれない。金目の情報が入っているなら良し、そうでなくてもコイツの解析は良い暇つぶしにはなりそうだ。
早速CGSに持ち帰ってデータを確認してみたが、ほとんどのデータが破損していてまともに開きさえしない。あの店のクソジジイめ。何が「まだ使えるレアな記録媒体だ」。大ぼら吹きやがって。俺じゃなきゃあ、こんなのただのゴミ屑だ。だが、俺の目的は暇さえ潰せりゃあいい。懸賞付きのパズルと大差はない。
のんびりとデータの復元と解析を進めると、数枚の画像データを確認することが出来た。
ずいぶんと古い画像だな。いったいどの時代だ? 文字らしいが、なんて書いてあるか読めやしねぇ。なんだ…こりゃあ?画像が荒くてよく見えねぇな…。
これはモビルスーツか?どこかで似たようなものを見た記憶があるが。ウチのCGSはモビルワーカーが精いっぱいでモビルスーツみたいな高価なモンはなかったはずだし…いったいどこで見たんだっけか…
結局何時間もかかって復元できたのは数枚の画像だけだった。まだまだ膨大なデータが残ってる。こいつにはまだまだ面白そうなデータが残ってそうだ。
しかし、このデータ量を一人で解析するのは暇つぶしの範疇を超えそうだ。さすがに学の無いガキどもに手伝わせるわけにもいかねぇし。かと言って、ここでやめちまって世紀の記録をみすみすゴミに戻すのも気が引ける。
ここは変人ジャスパーに声をかけてみた。CGSの中でもデータ発掘やらガラクタ漁りが趣味だという変わりモンだ。
説明には時間がかかったが、返事自体は「面白そうだ」というあっさりとしたものだった。引き受けると受け取った俺は、記録媒体をそっくりコピーしてジャスパーに手渡す。マルバのクソ社長に金目のモンだと探りを入れらないとありがたい。
俺は俺で解析を再開した。次の任務までまだ日がありそうだが、作業に取り掛かるのに早いことに越したことは無い。どうやら俺は柄にも無くこのデータに興味が湧いてきたらしい。
記録開始
P.D.323.07.28
この間の仕事で同僚のフランコが死んだ。
ヤツとプライベートで付き合うような事は無かったが、食堂で見かければ一緒に飯を食うぐらいの仲だった。
いつものように前線にガキどもを立たせて、そのお守りで後方支援に駆り出されていたらしいが、モビルワーカーから頭を出していたところに流れ弾がズドンと見事に命中。正規兵の戦死者はあいつ一人だって言うんだから、つくづく運の無いヤツだ。こんなしみったれた火星でガキと一緒にくたばるなんて、俺はごめんだね。モビルワーカーに乗ってドンパチやるよりも、今みたいに基地の中で適当にやって稼ぐのが俺の性分に合ってる。面倒な仕事はガキどもに押し付けちまえばいい。
それにしても、近頃ここクリュセじゃあ独立だなんだって、また嫌な雰囲気になってきてやがる。元々地球の植民地同然の火星だが、地球からの締め付けは弱まるどころかきつくなる一方だ。最近じゃろくなメシにもありつけやしねぇ。デモも活発化してきていて、ギャラルホルンが目を光らせてるってのが、もっぱらの噂だ。
上の奴らが下手なヤマに手を出してギャラルホルンに目をつけられでもしたら、所詮は民間警備会社のCGSなんてひとたまりもねぇ。雇われの身の俺としてはマルバのクソ社長が賢明な判断をしてくれる事をただ祈るだけだ。
俺が生まれたときから、いや、厄祭戦からずっと、いつ何が起こるかわかんねぇこんな時代が続いてる。フランコが死んだからとか、クリュセの独立運動とか、そんな事に流されたわけじゃないが、少しは自分の生きた足跡ぐらい残してみる、ってのも悪くはない。
そう思って柄にもなく書き始めたのがこの記録だ。
いったい何が残せるのか見当はつかないがな。
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